2024年10月20日(日)、NPO法人女子中高生理工系キャリアパスプロジェクトは、国際ソロプチミストオンライン鹿児島との共同主催で、理工系進路を考えている中高生の皆さんと理工系の様々な分野で活躍する科学者や技術者の皆さんとが夢や進路について語らうイベントを、鹿児島大学学習交流プラザ(鹿児島大学郡元キャンパス)において実施しました。
当日は鹿児島県内に在住・在学する中高生24名および保護者16名が参加し、1日のプログラムが開始されました。
開会式の後に行われたアイスブレイクでは、参加者全員で「マシュマロチャレンジ」に挑戦しました。「マシュマロチャレンジ」とはパスタ、マスキングテープ、紐、マシュマロを使って自立可能なタワーを立てるチームビルディングを目的としたゲームです。全員が初挑戦でしたが、時には大人も入り交じりつつ、みんなで一緒に楽しんで悩み、また知恵を出し合いながら、体験を通じてコミュニケーションの重要性を学びました。
引き続いて行われた「キャリア講演」では、鹿児島大学 理工学研究科 物理・宇宙プログラムで修士号を取得され、現在は福岡県で装置設計の仕事に携わる平田莉奈さん、鹿児島大学 焼酎・発酵学教育研究センター 特任助教を経て、現在は薬剤師のお仕事の傍ら焼酎造りにも挑む奥津果優さんから、学生時代の体験や現在の生活・仕事のことなど理工系進路の魅力について講演いただきました。
最初は緊張気味だった参加者からも時間が経つに連れて笑みがこぼれ、また積極的な質問も出されました。約1時間の長時間にわたる講義でしたが、将来理工系で学ぶこと、働くことの意義や理工系進路の多様性についての理解を深める貴重な機会となりました。
昼食を挟んだ午後の最初のプログラムでは、「サイエンスアドベンチャーⅠ「ミニ科学者になろう」」と題し、参加者が4つのグループに分かれ、鹿児島大学の教員のガイドで、本格的な科学実験に取り組みました。
「見えない音を見てみよう、聞こえない音を聞いてみよう」(講師:西村 方孝 さん(鹿児島大学 工学部先進工学科 情報・生体工学プログラム))では、タブレットPCを使った新しい楽器や研究室で独自に開発された超音波ラジオを使いながら、音を見て、触って、音の性質や特徴を学びました。「科学で解き明かされた漢方医学の知識を体験しよう!」(講師:志水 倫子 さん(鹿児島大学病院 漢方診療センター))では、代表的な生薬である「桂皮(けいひ)」を使い、他の生薬との組み合わせによって、効能がどのように変化するかを味覚や嗅覚を通じて体験しました。「プレート沈み込み帯地震の巣、付加体を作ってみよう」(講師:川端 訓代 さん(鹿児島大学 総合教育機構 共通教育センター))では、プレートの上に存在する泥や砂などの堆積物である付加体を実際に作ることにより、地震に至るまでにどのように付加体が形成されるのか、どこで地震が発生しやすいのかを観察しました。「光の化学」(講師:新留 康郎 さん(鹿児島大学 理学部 化学プログラム))では、金属による炎色反応などに代表される様々な「光るプロセス」を、実際に自分の目で見たり、高度な専門機器を使って観察しました。
どの実験もレベルが高いものでしたが、参加者のみなさんは教員や学生TAの熱心な指導により、それぞれの実験に真剣に取り組んでいました。また、単に手を動かすだけではなく、教員と一緒に結果や意味について一緒に考察することで、最新の科学技術に対する理解を深めることが出来ました。
続いて、参加者たちは「サイエンスアドベンチャーⅡ「技術者や先輩と話そう」」 と「サイエンスアドベンチャーⅢ「自分の夢をみんなに伝えよう」」に取り組みました。
まず、前半の「サイエンスアドベンチャーⅡ「技術者や先輩と話そう」」では、キャリア講演でお話し頂いた方たちに加え、鹿児島大学の浜島香織さん(大学院生(医歯学総合研究科))、服部祥さん(学部生(農学部))、松崎春香さん(学部生(獣医学部))、松元明子さん(理学部技術専門職員)、高石大輔さん(特任助教(理工学域理学系))、日本エアコミューター株式会社の江角安里彩 さん(パイロット訓練生)、入江花音さん(整備士)にも加わって頂き、自分の夢や将来やりたいこと、興味があることなどに関する話題を起点に、理工系進路について日々疑問や不安に思っていることについて、座談会形式での意見交換を行いました。
後半の「サイエンスアドベンチャーⅢ「自分の夢をみんなに伝えよう」」では、前半のプログラムで様々な分野で活躍されているみなさんと話すことで生まれた自分自身の夢や気づきを元に、それぞれの将来設計であるタイムラインを作成しました。
その後、講師や運営関係者、保護者を含めた多くの人たちの前で自分のタイムラインを発表し、それぞれが目指す将来像についてお互いにエールを送りました。
最後のプログラムとなる閉会式では、参加者の代表者に対して主催者から修了証が手渡され、全てのプログラムが無事に終了となりました。
2022年3月の静岡県浜松市、2023年10月の鹿児島県鹿児島市での事例に続き、首都圏以外での本格的な女子中高生を対象とした理工系進路選択支援事業の実施は三度目の経験でしたが、アンケートからも総じて高い満足度を得られたことを確認できました。全てのプログラムが軒並み高い評価を頂く結果になりましたが、特に本格的な科学実験に取り組むことができるサイエンスアドベンチャーⅠ「ミニ科学者になろう」の満足度が非常に高かったことは印象的でした。
今回は新たな試みとして参加対象に男子中高生も加えましたが、彼らからもプログラム全般に対する高い満足度を確認することができ、性別を問わず広く中高生の理工系進路選択を支援する取り組みを展開することの意義と重要性を改めて認識しました。また、事業の継続実施を望む声が多く聞かれる一方で、全体を通じて保護者も中高生とともに参加することが出来るプログラムの再考を望む声なども寄せられました。
4年制大学などの高等教育機関への進学には数多くの社会的諸条件が影響し、殊に地方在住の女子は多くの壁を乗り越えなければならないことは事実です。また、文部科学省による学校基本調査に基づくと、このことは一部の地方においては男子にも当てはまります。我々は闇雲に4年制大学進学、理工系進学を推奨しているわけではありませんが、誰もが自らの意思に基づいて自由に進路を選択できる開かれた社会の実現に向けて、今後も確実に歩みを進めていきたいと考えています。
最後に、本事業の実施に当たっては、アジレント・テクノロジー財団からご支援を頂きました。また、講師選定や企画運営全般に当たっては、鹿児島大学サイエンスカフェ有志の会ならびに鹿児島大学キャリア形成支援センターのみなさまのご協力を頂きました。本稿を閉じるに当たり、改めて本事業の実現にご尽力いただいた多くの方々へ深く感謝申し上げます。
なお、今回のワークショップの様子は鹿児島大学のホームページにも掲載されています。
・鹿児島大学ホームページ(2024年11月7日掲載記事)https://www.kagoshima-u.ac.jp/topics-education-students/2024/11/post-1988.html