2024年11月16日(土)、NPO法人女子中高生理工系キャリアパスプロジェクトは、信州大学との共催で、理工系進路を考えている女子中高生の皆さんと理工系の様々な分野で活躍する科学者や技術者の皆さんとが夢や進路について語らうイベントを、信州大学国際イノベーションセンター(信州大学工学部キャンパス)において実施しました。
当日は長野県内に在住・在学する中高生17名および保護者7名が参加し、1日のプログラムが開始されました。
開会式の後に行われたアイスブレイクでは、参加者全員で「マシュマロチャレンジ」に挑戦しました。「マシュマロチャレンジ」とはパスタ、マスキングテープ、紐、マシュマロを使って自立可能なタワーを立てるチームビルディングを目的としたゲームです。学生TAのアドバイスも受けながら、みんなで一緒に悩みながらも楽しむことができました。仮説を立て、実践し、それをもとに振り返りをするという体験を通し、コミュニケーションの重要性を学びました。


引き続いて行われた「キャリア講演」では、今年の4月に信州大学工学部において女性初となる学部長に就任された香山瑞恵さんから、参加者に向けて熱いメッセージを頂きました。その後、信州大学農学部森林工学科を卒業され、現在は長野県長野市の株式会社協同測量社に勤務され、主に自然環境の調査分析の仕事に携わる竹内美晴さんと、信州大学理工学系研究科 繊維・感性工学で修士号を取得され、現在は長野県千曲市のエムケー精工株式会社に勤務され、生活関連製品のデザイン・設計の仕事に携わる高橋美沙さんから、学生時代の体験や現在の仕事・生活のことなど理工系進路の魅力についてご講演いただきました。参加者の皆さんはとても熱心に講演に聞き入っていました。今後、自身の進学や将来について考える上で、理工系分野で学ぶという事、さらには、どのような職業選択が考えられるかといった事に対し、理解を深める貴重な機会となりました。




昼食を挟んだ午後の最初のプログラムでは、「サイエンスアドベンチャーⅠ「ミニ科学者になろう」」と題して、参加者が4つのグループに分かれ、信州大学工学部の教員や学生のガイドで、様々な分野の科学実験に取り組みました。
「オリジナルステッカーをデザイン・製作しよう!」(講師:広報室広報学生部会)で は、3Dプリンターやカッティングプロッターなどの機器について学び、グラフィックソフトを使い、カッティングプロッターを実際に動かし、オリジナルステッカーを製作しました。「オリジナル化粧水を作ってみよう!」(講師:岩井秀隆さん)では、ローションに含まれる成分を、自分の好みに合わせ配合し、オリジナルのスキンケアローションを作成しました。「無線伝送実験をしてみよう!」(講師:笹森文仁さん)では、自分で製作したアンテナを使って、電波を使った音楽伝送や電波時計の情報伝送を体験したり、可視光線を使って音楽を伝送する送受信機を組み立て、遠くまで音楽伝送ができるような挑戦を行いました。「土を固めて強い地盤をつくる。そして、壊してみよう!」(講師:河村隆さん)では、構造物を支える地盤について学ぶため、実際に土の中の空隙や水分量を変えて土を締め固めて、その強さの違いを体感しました。また、そこに力を加えて破壊し、その様子を観察しました。
どの実験もレベルが高いものでしたが、参加者のみなさんは教員や学生TAの熱心な指導により、それぞれの実験に真剣に取り組んでいました。また、単に手を動かすだけではなく、教員と一緒に結果や意味について一緒に考察することで、最新の科学技術に対する理解を深めることが出来ました。

サイエンスアドベンチャーⅢ「自分の夢をみんなに伝えよう」
続いて、参加者たちは「サイエンスアドベンチャーⅡ「技術者や先輩と話そう」」 と「サイエンスアドベンチャーⅢ「自分の夢をみんなに伝えよう」」に取り組みました。
まず、前半の「技術者や先輩と話そう」では、キャリア講演でお話し頂いた方たちに加え、信州大学工学部の大学院生の皆さんにも加わって頂き、自分の夢や将来やりたいこと、興味があることなどに関する話題を起点に、理工系進路について日々疑問や不安に思っていることについて、座談会形式での意見交換を行いました。参加者は、講師の皆さんや、大学院性の皆さんからのアドバイスを受けながら、将来の自分について思いを巡らせ、その夢に向かって、今の、そして近い将来の自分についても考えました。後半の「自分の夢をみんなに伝えよう」では、前半のプログラムで様々なみなさんと話すことで見えてきた自分自身の夢や気づきを基に、それぞれの将来設計であるタイムラインを作成しました。その後、講師や運営関係者、保護者を含めた多くの人たちの前で分のタイムラインを発表し、それぞれが目指す将来像についてお互いにエールを送りました。






最後のプログラムとなる閉会式では、参加者の代表者に主催者から修了証が手渡され、閉会挨拶として、信州大学工学部広報室長の寺内美紀子さんからこの一日を振り返りつつ、参加者の皆さんに励ましの言葉を頂き、すべてのプログラムが無事に終了となりました。


特定非営利活動法人女子中高生理工系キャリアパスプロジェクトが取り組む、首都圏以外での本格的な中高生を対象とした理工系進路選択支援事業の実施は、2022 年3月の静岡県浜松市、2023年10月と2024年10月の鹿児島県鹿児島市での開催に続き4例目となり、長野県長野市では初めての開催となりました
今回は新たな試みとして、サイエンスアドベンチャーⅡ「技術者や先輩と話そう」に取り組んでいる時間帯を利用して保護者向けのプログラムも用意しました。
まず、長野県環境保全研究所研究員で、地球環境科学博士でもある高野宏平さんから、自然科学の面白さを知ってもらうために「ハエの生態」をはじめとしたマニアックなお話をしていただきました。続いて、信州大学工学部工学基礎部門准教授の伊藤昇さんから、信州大学工学部の魅力や現在の進学の状況等についてお話ししていただきました。さらに当法人からは、代表理事である永合由美子さんから、女性の理工系分野における社会進出の障壁となっているアンコンシャス・バイアスについて、会員の市岡恵利子さんから、理工系の進学や就職を考える際の選択肢についてのお話をしました。理工系の進路選択について、保護者の皆さんに様々な側面から考えていただける内容としました。

参加者の皆さんは、一日のプログラムを通し、様々な方のお話しを聞き、それらの情報をもとに自分の未来について真剣に考え、それを発表しあうことにより、さらに深く考えることができたと思われます。「色々な職種の方の話が聞けて世界が広がりました」「将来について、自分の中で少し整理ができた」「ぼんやりとしか考えていなかった進路の方向性を定めることができた」「将来が楽しみになった」といった声が聞けたことは喜ばしいことだと思います。
一方で課題としては、初めから硬い印象で会が始まったこともあり、特に午前中は参加者にも硬さが目立ち、キャリア講演における質疑でも全く手が上がらなかったのは残念なことでした。意見が出やすいよう、質疑応答の実施方法等も工夫が必要であると思われます。また、今回は女子中高生を対象とし、結果的に中学1年生から高校3年生の参加となり、参加者の年代幅が広く、それぞれの捉え方に差が出てしまったり、相談を受ける側が対応に苦慮する場面もあったようで、そのあたりも検討課題と言えそうです。
なお、本企画の様子は、地元の新聞社、テレビ局に取材をしていただき、翌日の朝刊、ニュースで報道されました。来年度以降の同様の企画への参加に繋がることを期待したいと思います。
理工系に限ることなく、中高生が自分の将来を自ら考えて選んでいくことは、とても大切なことでありますが、比較的地方都市においては、そのための情報や動機づけの機会が大都市圏に比べると少ないように思われます。どこに住んでいたとしても、誰もが自らの意思に基づいて、自由に進路を選択できる開かれた社会の実現に向けて、このような地方都市における理工系進路選択支援事業の実施の継続は意味があるものと思われます。
最後に、本事業の実施に当たっては、アジレント・テクノロジー財団からご支援を頂きました。また、企画運営全般に当たっては、信州大学工学部のみなさまにご協力を頂きました。本稿を閉じるに当たり、改めて本事業の実現にご尽力いただいた多くの方々へ深く感謝申し上げます。
